中間管理職は、AIの時代も安泰なのでしょうか?
10月8日、シンガポールで経済に関する会議が開かれました。登壇したのは、ゴールドマン・サックスのケビン・スニーダーさん。日本を除く、アジア太平洋地域のトップです。以前は、コンサルティング大手のマッキンゼーで代表を務めていた方です。
スニーダーさんは、その会議でこう話しています。「うちの若い社員は、仕事を始めた時点で、もうAIエージェントを管理している」さらに、こうも言っています。「手に入れた仮想の軍隊を、最大限に使いこなさなければならない」仮想の軍隊とは、何体ものAIエージェントのことです。
新人が、人の部下ではなく、AIの部下を持つ。資料を作る。数字を計算する。くり返しの作業をこなす。これまで新人が大勢でこなしてきた仕事を、AIが受け持つのです。人は、指示を出し、出てきたものを確かめ、最後に決める側に回ります。これは、会社としての人員削減の発表ではありません。
幹部が、働き方の変化を語った言葉です。ただ、新人の働き方が変われば、その上の段にも影響が及んでいきます。これを聞いて、こう思った方も多いのではないでしょうか?「AIに取られるのは、新人の下積みの仕事だけだろう。」「管理職の自分には、まだ関係ない。」
けれども、僕の見方は違います。これまでの会社は、ピラミッドの形でした。新人で入り、下積みをして、上司から仕事を学び、やがて部下を持つ。ピラミッドは、下が広いから、真ん中が要りました。下の段の作業を、AIが受け持つとします。すると、新しく入る人の数が減るかもしれません。
下の人数が減れば、それを束ねる真ん中の人数も、いずれ減るかもしれない。アメリカでは、「AIへの移行で、中間管理職は宙ぶらりんになる」という言い方まで出ています。居場所が決まらないまま、変化だけが進んでいく。もう1つ、見落とせない変化があります。
新人がAIを管理するなら、新人もまた、管理する側だということです。現場のひとりひとりが、小さな管理職になる。そして、いまの管理職は、管理職を束ねる役になっていく。この話は、新人だけの話ではありません。真ん中にいる人ほど、いまのうちに備えておく必要があるのです。あなたの職場では、新人の仕事はどう変わってきていますか?
僕の会社では、AIが報告を上げてくる
僕の会社では、すでにこの形で仕事が回っています。AIが情報を集め、別のAIが分析し、進め方の案を持ってきます。僕が「これでいこう」と決めたら、また別のAIが実行します。僕は、報告を聞いて、決めるだけです。AIの側は、司令塔、現場をまとめる役、手を動かす役に分かれています。
つまり、中間管理職にあたる役割まで、AIの中にあるのです。ここだけを聞くと、やはり中間管理職は要らなくなるように聞こえるかもしれません。けれども、AIに渡していない場所が1つだけあります。「やる」か「やらない」かを決める場所です。AIは、書いてあることなら、速く正確にこなします。
でも、書いていないことは決められません。そこは、人に聞くしかないのです。たとえば、AIにホームページを作らせたとします。見本の絵があれば、数分で形にしてくれます。でも、見本にない会社のロゴや、空欄の答えは埋められません。そこで手を止めて、人に聞いてきます。しかもAIのおかげで、案は山のように出てきます。
すると、どれを選ぶかを決める力で、成果が決まってきます。迷ったら、何を優先するのか?僕は、この判断の基準を文章にしてAIに渡しています。すると、AIの提案が会社の考え方に沿ってくるのです。パソコンの土台になぞらえて、僕はこれを「OS」と呼んでいます。
そして、この判断の基準を作る材料は、自分の経験です。これまで管理職は、下積みの仕事を通して育ってきました。資料を作り、数字を合わせ、何度も叱られて覚える。下積みは、ただのつらい作業ではなく、仕事の勘を身につける訓練の場でもありました。その下積みをAIが受け持つと、出世のはしごはエレベーターになるかもしれません。
けれども、何年分もの経験を飛ばして、同じ場所にたどり着けるでしょうか?何百回もお客さまと向き合い、うまくいく場合とそうでない場合を知っている。この経験は、AIには持てません。
経験のある人がAIを使えば、出てきた案の良し悪しを見抜けます。ですから、消えていくのは中間管理職という立場ではなく、「上から下へ伝えるだけ」の役割だと思っています。決める力を持った人は、人の部下とAIの部下の両方を率いる側に回れます。
ゴールドマン・サックスと、それに反論する声
では、世界の専門家は、この変化をどう見ているのか?ゴールドマン・サックスの調査部門が6月25日に出した報告書の題は、「AIによる雇用の大崩壊は来るのか?」です。エコノミストの見積もりでは、AIが広がる10年ほどで、アメリカの約1,500万人が仕事を失うおそれがある。
アメリカの働く人の、9%を超える数です。ただし、この影響はいっときのもので、長い目で見れば新しい仕事が上回る、と見ています。AIは、仕事を奪いもするし、生みもする。これが、ゴールドマン・サックスの見方です。もっと慎重な経済学者もいます。
ノーベル経済学賞を受けた、アセモグル教授です。AIエージェントが手軽になれば、影響は事務の仕事にとどまらず、判断を伴う中間管理職の仕事にまで広がりうる。事務の仕事の次は、中間管理職の番かもしれないということです。ここまで聞くと、不安になる方も多いと思います。
一方で、反対の声もあります。インドのIT大手、インフォシスの会長、ナンダン・ニレカニさんです。ニレカニさんは、AIで仕事が消えるという話を「ディザスター・マーケティング」、つまり、わざと怖がらせる宣伝だと呼びました。技術が会社に広がるには、年単位の時間がかかるからです。
クラウドは、20年ほど前に生まれました。それでも、まだすべての会社に行き渡ってはいません。古い仕組みや社内の力関係、人の不安を動かすのは、結局は人です。もちろん、プログラムを書く仕事は自動化が進んでいきます。ここは、ニレカニさん自身も認めています。
そのうえで、ニレカニさんはこう言います。AIを使いこなすうえで、技術の話は全体の3割にすぎない。残りの7割は、ルール作り、社内の変化のかじ取り、そしてAIの歯止めだ。歯止めとは、AIが間違えたり、勝手に動いたりしないようにする仕組みのことです。さらに、お客さまの望みをくみ取ることや、人と人をつなぐことも残る。
新しい仕事は、そこに生まれるとニレカニさんは見ています。奪われるという見方もあれば、大げさだという見方もある。ただ、どちらの見方にも共通していることがあります。AIを使いこなす側に回った人には、新しい出番が生まれる。この点だけは、同じなのです。
「宙ぶらりん」にならないために
では、5年後、10年後はどうなっていくのか?ここからは、僕の見立てです。5年後。会社の階層の数は、減っていくと見ています。上から下へ情報を伝えるだけの役割を、AIエージェントが受け持つからです。10年後。管理職という仕事は、なくならないと考えています。
ただし、人の部下とAIの部下の両方を率いる仕事に変わっていきます。もちろん、弱気の見方もあります。下積みの場が消えて、次のリーダーが育たなくなる道です。そして、この見立てが崩れるのは、AIが「決める」ところまで任されるようになったときです。そうなれば、管理職の形そのものが変わってしまいます。
どちらに転ぶにしても、備えておくことは変わりません。AIを、部下として使いこなせること。そして、世の中で何が起きているのかを、自分の言葉で判断できることです。ゴールドマン・サックスも、インフォシスも、マイクロソフトも、エヌビディアも。AIの変化を動かしているのは、アメリカをはじめとする海外の会社です。
その会社の動きを知らないまま、AIの部下だけを持とうとしても、どこへ向かえばいいのかが分かりません。そこで、僕のYouTubeの連載「米国株20億円投資家の結論」で、AIと米国企業の動きをしっかり学んでおいてください。今回のお話の元になったゴールドマン・サックスの回でも、強気の見方と弱気の見方を両方並べてから、5年後・10年後の姿を考えています。
ほかにも、対企業のAIで最後に勝つのはMicrosoftか?AIエージェントの覇権をどこが握るのか?といった回もあります。どれも、会社の中でこれから何が起きるのかを考える材料になります。宙ぶらりんになるのを待つのか?それとも、AIを率いる側に回るのか?通勤や移動の時間に、まずは1本、聞いてみてください。チャンネル登録をしておけば、新しい回が出たときにすぐに届きます。
YouTube「米国株20億円投資家の結論」◆チャンネルはこちらから→https://www.youtube.com/@zetaneet
出世のはしごがエレベーターに変わっても、決める力を持った人は上へ進めます。その力を、いまのうちに身につけておきましょう!